前回からの続きです。
5.Kok An(コック・アン)- 『Gambling King Pin(ギャンブル・キング)』
中国系カンボジア人。コングロマリット企業ANCOブラザーズ会長。フン・セン首相のアドバイザー、カンボジア赤十字社理事を務める。人民党(CPP)議員。
タイ・ベトナム両国との国境地域(ポイペト・バベット・パイリン・チュレイトム)を拠点にカジノ・リゾート事業(
Crown Resorts)を展開している。その他の代表的な事業はKhmer Electrical Power(電力)、Anco Water Supply (水道)など。
SUTLやブリティッシュ・アメリカン・タバコのタバコ(「555」)、バドワイザー(ビール)、Evian(ミネラルウォーター)の販売代理業も担う。人民党との関係は深く、2003年に発生した
タイ大使館焼き討ち事件の際、タイ政府への損害賠償金5千万ドルの負担を支援した人物のひとりだとも言われる。
最近世間を騒がせたのは2012年の
ANCOブラザーズ社巨額横領事件の狂言疑惑。同社資金約6千万ドルの不正横領容疑で社員とその妻(プノンペン国際大学学長のテプ・コラプ)が逮捕されたが、証拠不十分のまま裁判が一方的に展開したため、「事件は損害賠償を口実にプノンペン国際大学の資産を狙うコック・アンの狂言」との疑惑が強まる。
最高裁で審理は差し戻されたが、約1年の勾留後に釈放されたテプ・コラプに襲撃未遂が発生。フン・セン首相夫人が両者の仲裁のために介入したが、テプ・コラプがコック・アンを逆提訴する泥仕合となっている。
6.Sok Kong (ソック・コン)- 『Mr. Sokimex(ミスター・ソキメックス)』
(出所:Khmer-world.com)
ベトナム系カンボジア人。クメール・ルージュ政権時代にベトナムに逃亡し、政権崩壊後にカンボジアに帰還。ベトナムのゴム製品販売事業から成長した巨大コングロマリット企業、
ソキメックス(Sokimex)グループのCEO。
グループの現在の主な事業はSokimex Petroleum(石油供給・ガソリンスタンドチェーン大手)、Sokimex Gas、Sokimex Jetty(石油・ガスの貯蔵施設運営・輸送※丸紅との合弁)、Sokha Hotels & Resorts(シアヌークビル、シェムリアップ、プノンペンなどの高級ホテル・コンドミニアム経営、世界遺産のアンコール遺跡群の入場チケット販売)、ゴム・プランテーションなどアグロ・インダストリー事業。
ソキメックス、ベトナム、人民党の3者の密接な関係は野党から激しく批判されてきている。同社はカンボジア軍御用達の軍用品(ユニフォーム、医薬品など)や燃料供給企業であり、石油の輸入販売に関しては長年、輸入関税の支払いを特権的に免れることで利益をあげた。
最も論争の的になっているのは
アンコール遺跡群の入場チケット販売管理事業を巡る不正疑惑。ソキメックスは1999年に競争入札無しに政府から同事業を受注し、現在まで独占的に契約を更新しつづけているため、透明性と公平性の欠如が問題視されている。
かつてはソキメックスから政府への年間支払額は100万ドルに固定され、これを上回るチケット販売収益は全て同社に帰属する契約条件となっていた。現在は同社の手取りのシェアは全収益の15%に固定されているが、収支の詳細は公開されていない。
このため、遺跡訪問者数が増加の一途をたどるなか、同社と遺跡管理を担うアプサラ機構(Apsara Authority)が販売収入の過少申告により不当に利益を得ているとの疑惑がくすぶり続けている。反越感情と結びつき、「アンコールワットがベトナム企業の所有物になっている」といった批判や不満を生む状況にもつながっている。
7&8.Yeay Phu (イアイ・プー) とLao Meng Khin(ラオ・メンクン)-『Power Couple(パワーカップル)』
(出所:Forbes)
カンボジアの政財界で大きな権勢をふるう夫妻。コングロマリット企業、ピアピメクス(Pheapimex)グループの共同オーナー。妻のイアイ・プー(通称。本名Choeurn Sopheap)は中国系カンボジア人であり、中国系企業、政権幹部の夫人達と強いコネクションを持つ。夫のラオ・メンクンは人民党(CPP)議員。フン・セン首相のアドバイザー、カンボジア商工会議所の副会長を務める。
夫妻はピアピメクスを通じてカンボジアの国土面積の7.4%を保有していると言われており、同社は森林伐採やプランテーション開発、不動産開発のために環境破壊、土地収奪、人権侵害を繰り返す企業として悪名高い。このほか、ヨード添加塩や鉄鉱石生産、医薬品輸入、ホテル経営にも手を広げている。
人権・環境団体やメディアからの批判は数多い。代表的な事件は、
・「ポーサット州・コンポンチュナン州の土地収奪・森林破壊問題」:2000年にピアピメクスが台湾企業との合弁のプランテーション開発のために両州に計31万ヘクタールの用地を取得。抗議する現地住民を軍を使って排除し、森林を大量伐採したことで批判を浴びる。2004年には抗議運動中の住民が手榴弾で襲撃され、8名が負傷。しかし警察は住民の自作自演と判断し、事件は未解決のまま。
・「モンドルキリ州の土地収奪問題」:2005年、シー・コントリーブ(前出)と共同ダイレクターを務める中国系企業Wuzhishan LSグループがプランテーション開発のためにモンドルキリ州に法定上限の約20倍の土地を獲得(前回エントリを参照)。
・「ボンコック湖の土地収奪・住民強制移転問題」:2007年、夫妻が所有するシューカク社が不動産開発のためにプノンペンのボンコック湖の用地を取得し、埋め立て。2012年、強制移転させられた住民女性が抗議のデモ集会を開き、警察に逮捕。13名が一方的な裁判で禁錮2年半の実刑判決を受け、投獄される。事件は現在も未解決であり、住民と警察との衝突や逮捕が繰り返されている。
(参考エントリ)ボンコック湖住民の苦闘-『Even a Bird Needs a Nest』 (2013/3/24)
(つづく)