天候インデックス保険はカンボジアの農家を救えるか(1) |
これは農家を悩ませる「干ばつ」による作物への損害を軽減することを目的とした保険商品で、タイ気象庁が発表する雨季の降水量が一定基準を下回った場合、保険加入者の農家に保険金が支払われるという仕組みになっています。
通常の保険のように「実際に農家が受けた被害額に応じて保険金を支払う」という仕組みだと、細かい被害の査定に要する様々なコストが加入者に転嫁されて保険料も高くなりますし、加入者が実際に保険金を受け取るまでに時間もかかってしまいます。これに対して「天候インデックス保険」は、実際の被害の発生の有無は関係なく、対象地域の降水量という客観的な指標(インデックス)が判断基準になるため、保険料も比較的安価で支払いも迅速になるという利点があります。
タイ東北部には営農資金を政府系のタイ農業協同組合銀行(BAAC:Bank for Agriculture & Agricultural Cooperatives)からローンで借り入れている稲作農家が多く、彼らはコメの収穫・販売後にローンを返済し、翌季にまた借り入れるというサイクルを繰り返しています。
そこで損保ジャパンは、国際協力銀行(JBIC)の支援と仲介を得てBAACと提携。BAACの顧客の農家に対してローンとセットで天候インデックス保険を売る、というスキームを作りました。通常、干ばつの発生時の損害は生産農家だけでなく農家にローンを貸し付けているBAACにも及ぶ可能性がありますが、保険付きローンの導入により、農家もBAACも債務不履行リスクを低減できるわけです。
具体的な運用では、下図のように7月と8・9月の2期間の累積降水量を観測対象とし、どちらかの期間の降水量が一定値を下回れば保険金(対象ローンの15%または40%相当額)が支払われる形になっています。期間を2つに区切ったのは、作付け初期の7月に発生する干ばつに対しても早期の保険金支払いが可能となるよう配慮した結果だそうです。
このビジネスはまだプロジェクトベースで試行と改良を繰り返している段階のようで、2012年時点の保険販売地域は9県。保険の契約件数は2010年当初の約1,200件から2011年に6,000件超に拡大したものの、タイで大きな洪水被害が発生した影響で翌2012年は販売が減少に転じてしまったようです。
ただ2012年にタイ東北部では干ばつが発生し、実際に約85%の契約者に保険金の支払いが行われるなど、保険の効果が実証されたとのこと。損保ジャパンは今後、販売対象地域の拡大、対象作物や保険加入者の多様化を進めようとの展望を抱いているそうです。
この天候インデックス保険、同じように洪水と干ばつのリスクに直面し、借入れの返済に悩むカンボジアの農家にとっても問題解決の糸口になりうる気がするのですが、例えばカンボジアのマイクロファイナンス機関と連携するといった形で同様の保険事業に挑戦してみようと考える企業はいないものでしょうか。
などと考えていたら、実はまさに今年、アジア開発銀行(ADB)がカンボジアの農業分野の援助事業のなかでこの天候インデックス保険の導入に試験的に取り組もうとしていることを知りました。私が知らないだけで既に他に先行事例はあるのかもしれませんが、今回はADBの事業についてその計画が具体的にどのようなもので、その実現に向けてはどのような課題がありうるのか、少し概要をまとめてみたいと思います。
((2)に続く)
(参考)
・槇絵美子(2013)『タイ稲作農家向けインデックス保険の取り組み』, ARDEC48号
・国際協力銀行(2012)『損保ジャパン、タイで事業拡充する「天候インデックス保険」』