ソマリー・マムの罪と罰 |
主役となっているカンボジア女性は反強制売春・人身売買の活動家、ソマリー・マム(Somaly Mam)です。今回、同誌には『セックス・トラフィッキングの聖者(と罪人)』という副題がついた記事が掲載され、彼女のこれまでの活動や発言に隠されていた数々の捏造や虚偽が告発されています。内容は、以前にこのブログでも触れたものとほぼ同じです。
・カンボジアの反児童売春活動に潜む「秘密と嘘」?
ただし今回の記事で改めて驚かされたのは、人々に衝撃を与えたソマリー・マム本人の壮絶な半生のエピソードにも、多くの捏造が含まれていたことです。
自伝によれば、ソマリー・マムは幼少期に残虐な養父に奴隷同然に育てられ、中国人相手に処女を売らされた挙句、14歳で暴力的な兵士と強制的に結婚させられたことになっています。その後プノンペンの売春宿に売られ、虐待を受けたとのこと。
しかし、彼女の幼少期を知る人々の証言を総合すると、そもそも「養父」や「中国人」「暴力夫」などはじめから存在していなかったようです。彼女は実の両親と暮らし、高校を出るまで普通に教育を受け、地元の村ではその愛くるしい容姿で周囲の人気を集めていたとか。
Newsweekの発売から数日後、ソマリー・マムは記事に何ら弁明することなく、ソマリー・マム財団を辞職してしまいました。財団側の発表によれば、本件に関する第三者調査を実施した結果、彼女の辞職を受け入れるに至ったとのこと。告発内容の真偽については直接的に触れていませんが、暗に事実だったと認めた形です。
このニュース、特に米国で波紋を呼んでいるようです。元国務長官のヒラリー・クリントンやハリウッド女優のスーザン・サランドン、アンジェリーナ・ジョリー、フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグなど、ソマリー・マムの活動を強く支持してきた著名人は政財界を含めて数多いので、当然といえば当然かもしれません。
かく言う私も、過去のエントリの一部は、やはりソマリー・マムの活動を強く支持するNew York Timesのコラムニスト、ニコラス・クリストフ氏の複数の取材記事を参照して書いたものでした。このエントリには今も多くのアクセスをいただいているようですが、カンボジアのセックス・トラフィッキングの現状について事実と異なる情報が含まれてしまっているかもしれません。
「いずれにせよ、ソマリー・マムがアフェシップ(AFESIP)を通じて多くのセックス・トラフィッキング被害者を救済してきたことは事実」「彼女の功績や貢献の大きさは否定できない」という見方もあるようですが、今となっては「功績」として語られてきた内容がすべて真実だという保証もありません。
こうした疑惑を払しょくするためには、ソマリー・マム財団やアフェシップが今回の件について徹底的な調査をし、結果を公表することが必要でしょう。ただし、どのみち彼らに対する国際的な資金援助は確実に減少に転じ、その活動は縮小に追い込まれることだろうと思います。
カンボジアのセックス・トラフィッキングや人身売買の被害者救済は今後も重要でしょうが、支援者側はソマリー・マムのような活動家やNGOの訴えを安易に鵜呑みにするべきではなく、ひとつひとつの情報の信頼性を「性悪説」に立って見極めようというぐらいの慎重さが必要かもしれません。