タイのクーデターでカンボジア人の合法出稼ぎ労働者が増加する?(2) |
タイの軍事政権はカンボジア人移民に対する「弾圧」や「排斥」は無いと否定していますが、不法移民の流入はしっかり取り締まっていく方針だと思います。今回の安いカンボジア人労働力の流出はかなりの痛手でしょうが、だからといって、出て行ったカンボジア人にまた不法移民として戻って来られるのも困るはずです。
そんななか、カンボジアのフン・セン首相が唐突に打ち出した対策は「パスポート発行手数料を従来の135ドルから4ドルにまで大幅に引き下げる」というものでした。加えて新たな規制により、通常、認定ブローカー(派遣業者)を介して行われる入国・就労手続のコスト(パスポート発行手数料を含む)を定額49ドルに抑えるとのこと。さすが、独裁政権だと行動と決定が速いです。
これまで多くの人々が合法的なルートでの出稼ぎを避けてきた理由の1つとして、この高い入国・就労手続コストの問題がありました。「49ドルでもまだ高い」「手続きの過程で役人に『袖の下』を要求されるので、結局お金はもっと必要になる」という指摘もありそうですが、従来に比べればコスト面のハードルはかなり下がると思います。
一方、タイの軍事政権側も独自に緊急的な対策を打ち出しました。先週、カンボジアとの国境に位置する4県に、労働許可証の発行手続を一括で行う臨時センターを設立。これもさすが、軍事政権だと対応が早いです。
あくまで7月末までの時限的措置ですが、タイでの就労を希望するカンボジア人は、このセンターに行けばワンストップで2か月間有効の暫定の労働許可証をわずか80バーツ(2.5ドル)で発行してもらえるそうです。そうやって一旦仕事に就いた後、2か月以内に就労先の各県で、正規の労働許可証を再取得することになります。
Phnom Penh Postの報道によれば、カンボジア政府が打ち出した49ドルの新システムの方は全手続の申請から終了まで53営業日を要する点が問題だとのこと。具体的にはIDカード、パスポート、タイの労働許可証、ビザなどの取得手続きが派遣業者を通じて1つ1つ順を追って進められるのですが、日数がかかり過ぎるという見方が強いようです。
多くのカンボジア人たちは「53日も待っていられない」ということで、早くもタイの臨時センターの方に殺到し、1日あたり何千人というペースでタイ国内に戻り始めているようです。軍事政権がカンボジア政府との事前協議無しにこの対策を打ち出したことから、面目を潰された格好のカンボジア政府は気分を害しているようですが、いずれにしてもそれぞれの政府の努力で、合法的な形で出稼ぎに出られるチャンスが以前より多くの人に広がるのなら、喜ばしいことだと思います。
ある意味皮肉な展開ですが、今回のクーデターとカンボジア人移民のパニック的な出国がなければ、このようなドラスティックな措置が一挙に実施されることは無かったかもしれません。その実効性を懐疑的に見る向きもありますが、中長期的に正規の移民労働者の増加につながり、怪しいブローカーや雇用主に搾取される気の毒な不法移民が減っていくことを期待したいです。