カンボジアとメコン流域国を悩ませる3つのダム建設問題(1) |
カンボジアは漁業が盛んな国で、国民は動物性たんぱくの8割を魚から摂取しているとも言われますが、その大半はこのメコン-トンレサップ水系でとられる淡水魚です。メコン川から運ばれてくる養分に富んだ堆砂や土壌も浸水域の魚の生育や森林保全、稲作に重要な役割を果たしています。
このためメコン川の水資源環境の保護はカンボジアの人々にとって死活的に重要なのですが、この国際河川では水力発電用ダムの建設が数多く計画されていて、大きな脅威になっています。特にメコン川の上流域に位置する中国は下流域に及ぶ負の影響をまったく意に介さず、既に4つの大規模ダムを建設。さらに増設を進めています。
一方、下流域に位置するタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4国は、メコン川の持続的な開発のために共同で必要な調整や協議を行うメコン川委員会(Mekong River Commission: MRC)に加盟しています。
約20年前、4国は「メコン川にダム建設を計画する場合はMRCに通知し、事前協議を行ったうえで合意を得る」というルールを作りました(メコン協定)。上流域では中国が勝手を働いているものの、下流域の4国間では「互いに相談もなく単独で開発を進めてはいけない」との約束を結んでいるわけです。
しかしここ数年、この4国間でもダム建設を巡る緊張が高まっています。その中心にいるのがラオス。ラオスは東南アジア諸国のなかでは後進国ですが、経済発展の手段としてタイやベトナムなど近隣国への電力輸出を頼みの綱にしていて、今や「ASEANのバッテリー」という称号まで獲得しています。このため水力発電用ダムの増設は必要不可欠で、上の地図に見られるようにメコン川本流だけで9つのダムを国内に建設する計画を持っています。
この9つのダムのなかで今、ラオスが実際に建設に着手する動きを見せ、4国間の対立の火種になっているのが『サイヤブリ・ダム(Xayaburi dam)』と『ドンサホン・ダム(Don Sahong Dam)』の2つのダムです。他方、カンボジア国内で計画され、同様に環境・人権団体などからの非難の的になっているのがメコン川支流の『セサン下流第二ダム(Lower Sesan 2 Dam)』です。
メコン川の開発と環境破壊の問題はカンボジア国内でも年中報じられ続けていますが、近年、その内容はほぼこの3つのダムの話題に集中しているように見えます。それぞれのダム建設計画の何がどう問題になっているのか、基本的な点は理解しておきたいところです。
(2)へ続く