ASEAN経済統合はカンボジアにどう影響するのか |
AECはEUのような通貨統合を行うわけではなく、加盟国間の関税・非関税障壁の撤廃や緩和、インフラ整備などを進め、域内での貿易、ヒト、モノ、カネの流れを自由化することがねらいです。EUよりもTPPのASEAN版をイメージする方が近いのかもしれません。
そのねらいが実現したとして、ASEAN諸国やカンボジアの経済、特にカンボジアの教育相も懸念を述べている雇用面にどのような影響が及ぶのでしょうか。最近、ADB(アジア開銀)とILO(国際労働機関)がその予測をまとめた報告書を出していて、カンボジアの現状と課題をざっくりと理解するうえでも参考になったので、簡単にメモしておきます。
もっとも恩恵を受けるのはカンボジア?
下のグラフ(※クリックで拡大できます)はAEC創設で貿易自由化が実現した場合の経済効果です。AECが創設されない場合(ベースライン)のシナリオと比較すると、ASEAN全体では2025年までに国内総生産(GDP)が約7%増となる想定。あくまで1つのシミュレーションに過ぎませんが、国別で最も高い恩恵を受けるのはカンボジアだとのこと(ベースライン比:約20%増)。
なぜこうなるかというと、現時点でカンボジアの生産者や消費者が受けている貿易障壁や輸出入コストの負の影響がそれだけ他国より大きいから。その撤廃や緩和が進むと、メリットも大きくなるということのようです。
良くも悪くも縫製業頼み
次のグラフはASEAN各国の産業別の労働人口構成です。カンボジアの場合、「今や2人に1人は農業以外の仕事に就くようになっている」とか「もっと産業構造の変化が進んでいると思っていたベトナムとほぼ同じ構成」というのはやや意外な発見でした。
ただし、報告で指摘されているカンボジアの課題はサービス業(オレンジ色の部分)。他国はどこもここ10~20年でサービス業が成長し、雇用が伸びていますが、カンボジアだけ停滞。2004年から約30%のままほとんど伸びていません。
代わりに雇用が増えているのは製造業です。ただ、これも各国の製造業がより「高スキル(high-skill)」の「技術集約型」に進化していくなか、カンボジアだけは「低スキル(low-skill)」「労働集約型」の縫製業(下のグラフのピンク色の部分)に大きく依存したまま。ずっと指摘されていることですが、多様化がなかなか進んでいません。
もっとも、農村地域からやってくる教育水準のさほど高くない単純労働者の受け皿として、こうした労働集約型産業の存在は今後も重要です。中所得国入りを目指す限りは、いつまでもこの依存状態に甘んじていてはダメでしょうが、当面は良くも悪くも経済を支える柱として今の調子で成長を維持することが期待されます。
AEC創設後、国内の「低スキル」人材の労働需要は71%増加するとの予測が出ています。彼らの労働生産性を高めるには、やはり国全体として基礎(初等・中等)教育や職業訓練の質の向上に取り組み続けることが不可欠なのだろうと思います。
(つづく)