変化を迫られるカンボジアの外交戦略(2)-巧みに利用される日本? |
そこでここ数カ月間、注力しているように見えるのがベトナムとの関係の強化。昨年12月にフン・セン首相がベトナムを訪問したのに続き、先月はベトナムのズン首相がカンボジアを訪問し、両国の貿易・投資会議を開催。ベトナムはカンボジアに対して金融、アグリビジネス、観光業やテレコミュニケーションなど複数の産業セクターで経済的な結びつきを強化することを確約しました。
CSISによれば、ベトナムは2012年末までにカンボジアの130近くの事業に約30億ドルを投じ、カンボジアの最大投資国の一つになっているとのこと。The Phnom Penh Postの報道では、2013年のベトナムからの投資額は前年比2.5倍の約3億ドルに急上昇したとも伝えられています。
そもそもカンボジアの人民党政権は「ベトナムの傀儡」として長く批判され続けたほどですから、ベトナムとの結びつきの深さは今に始まった話ではありません。ただしここ数年、南シナ海の領有権問題を巡ってベトナム(及びASEAN諸国)と中国の間で利害が衝突するなか、カンボジアは明らかに中国寄りの行動をとってきました。
これはカンボジアにとって外交上の優先順位が「中国>ベトナム」となっていた証拠ではないかとも感じますが、これからはわかりません。ベトナムとの最接近は「そっちが煮え切らない態度を見せるなら、こっちだってベトナム側につきかねないぞ」と中国を牽制する意味もあるのかもしれません(ただし、ベトナム自身がこの問題で中国に懐柔されつつあるという情報もあります)。
ベトナムの立場からすると、救国党(CNRP)の反越主義は容易に修復しがたいほど強いので、カンボジアで政権交代が起きてしまえば、どのみち損失の方が大きくなります。中国と違って人民党政権への政治的・経済的支持を強めることに躊躇する理由はないと考えられるようです。
ただ、ベトナムだけでは味方が足りないフン・セン首相。CSISは、そこで首相が「抜け目なく利用した」相手として日本の名前を挙げています。
昨年11月には安倍首相がカンボジアを訪れ、さらなる援助の提供を表明していますが、政権浮揚策を必要としていたフン・セン首相にとってこのタイミングでの訪問は随分有難いバックアップになったようです。
さらに翌12月には東京で日ASEAN特別首脳会議が開催され、フン・セン首相が出席しています。日本はこの会議で東シナ海の防空識別圏問題に関し、ASEANを巻き込む形で中国に圧力をかけるねらいだったようですが、カンボジアやラオスが中国を直接的に牽制する表現に難色を示したことで、共同声明から「安全保障上の脅威」という文言が削除されたと報道されていました。
これだけ聞くとカンボジアの「親中」国としての立場は不変との印象も受けますが、2011年のASEAN会合での南シナ海の領有権問題への対応と異なり、防空識別圏の問題を議論にとりあげることには反対しなかったとのこと。
これも人民党政権の「絶対的な中国追従」政策からのシフトの始まりととれるかもしれませんし、単に日中両国の機嫌を損ね過ぎない妥協点を探った結果かもしれません。あるいは、うがち過ぎかもしれませんが「今後、場合によっては日本やASEAN側に歩み寄りかねない」というポーズを示すことで中国側の「人民党離れ」を牽制する戦略だとも考えられます。
素人にこうした外交ゲームの機微がわかるわけもありませんが、人民党政権の外交戦略の今後の変化、特に中国との関係がどのように微妙な動きを見せていくことになるのか、興味深いところです。