どの銀行がベスト?-カンボジアの高金利米ドル定期預金 |
そして現在、カンボジアの銀行でドル建ての定期預金を開設すると異常に高い金利がつきます。これは数年前まではまだ「知っている人は知っている」的な情報だったようにも思いますが、今や少なくともカンボジアの在留邦人の間では常識化した話です。
特に昨年、日本のSBIが出資するプノンペン商業銀行(Phnom Penh Commercial Bank: PPCB)が新たにジャパンデスクを設置し、在留邦人向けのフリーペーパーなどに「1年定期で年利6.20%」と題した広告をガンガン出すようになってから、高金利ドル預金の認知度が飛躍的に高まったような気がします。
「なぜ、こんな常識を超えた高金利が可能なのか」という理由、そして「当然リスクも高いので、手を出すなら自己責任」という注意については、昨年に以下のネット記事でも触れられていましたので、興味のある方はこちらをご参照ください。
[橘玲の世界投資見聞録]
・ブームの”カンボジアの高金利ドル預金”の背景
[All About]
・米ドル定期預金で金利5.5%を狙う裏ワザ
日本に住む個人投資家がこの話を耳にすれば、やはり一番気になるのは「カンボジアという国の経済や金融セクター自体がどうなるものともわからない」というソブリン・リスクではないかと思います。
ただ、これがカンボジアの在留邦人の立場だと、いずれにしても現地での生活上、国内で銀行口座を開いてお金を預ける必要が生じるので、心理的なハードルは下がる気がします。「どうせなら定期預金にも少しお金を置いておくか」というぐらいの気持ちで、気軽に口座開設を検討する方も多いのではないでしょうか。
個人的に気になるのは「では、口座を開くとして、どの銀行を選ぶのがベストなのか」という点です。PPCBは、株主であるSBIのネームバリューと大々的な広告効果、ジャパンデスクで日本語対応可能という利便性も大きいので、人気や注目度は一段と高いかもしれません。
ただし、カンボジア国内の銀行の数はとにかく急増していますし、日本企業の出資・提携先となっている銀行は他にもあります。例えば上の記事で紹介されている国内最大手のアシレダ銀行(Acleda Bank)は先日、三井住友銀行が筆頭株主になったと報道されたばかりです。
国内第2位のカナディア銀行(Canadia Bank)は三菱東京UFJ銀行とみずほ銀行の提携先。みずほはメイ銀行(May Bank)とも提携しているそうですし、パチンコチェーン大手のマルハンが出資するマルハンジャパン銀行(Maruhan Japan Bank)もあります(※)。
この5行を含め、国内の主要銀行のラインナップや預金金利の水準はどうなっているのでしょうか。どこまで信頼できるのか保証はありませんが、中央銀行(National Bank of Cambodia:NBC)が発表しているデータを簡単に見ておきます。
まずは総資産の規模のランキング。国際通貨研究所によれば、近年はアシレダ銀行(18.2%)、カナディア銀行(14.3%)を含む上位3行のシェアが約4割と安定的に高く、4~10位までの中堅行のシェアが低下傾向にある(=競争激化)のが特徴だそうです。
しかし今後は、下位行からも熾烈なサバイバル競争を抜け出してくるところが出てくるかもしれません。PPCBは急スピードで成長中とはいえ、国内シェアはまだ1.6%(16位)です。
カンボジアの主要銀行(総資産規模上位20行)
(単位:百万リエル)
この20行のドル定期預金(1年)の金利を比較してみると、PPCBの6.2%が最高利率(2013年12月現在)。日本企業の出資・提携先5行はすべて上位10位以内に入っています。
言うまでもなく、通常は信用力の低い銀行ほど預金金利が高くなるはずです。それだけの対価(リスク・プレミアム)を支払わないと預金が調達できないので金利を上乗せする形になるわけですが、PPCBの相対的に高い金利もこの原理で全て説明されることになるのでしょうか。
他行の数字を見ても、必ずしも金利水準と信用力がマッチしていないよう(というか、バラバラ)にも見えてしまいます。カンボジアの場合はインターバンク市場も未発達で非効率だから、ということなのかもしれませんが、どういうメカニズムで金利水準が決まっているのか、素人の私にはよく分かりません。
「預けても危なくない先なのかどうか」という点は当然気になります。在留邦人だと日本企業の出資・提携先の銀行の方がなんとなく安心感があるかもしれません。具体的な安全性の指標を比較したいところですが、自己資本比率についてはまとまったデータが見あたりませんでした。
不良債権比率については下記の通り限定的(20行中16行)に情報が掲載されていましたが、最下位のカナディア銀行の数字(5.6%)はちょっと気にかかります。
ついでに収益性も見ておくと、総資本利益率(ROA)は以下のとおり。分子となっている利益は税引き後の当期純利益(2013年)です。ROAは、高ければ高いほど効率的に資産を活用して利益を生み出しているということになります。
預金者の立場からするとこうした指標ばかりに目が奪われがちですが、カンボジアの銀行はまだコンプライアンスがしっかりしていないところが多く、児童労働や人権侵害などの問題を抱えた企業や事業への融資・出資がしばしば発覚し、報道されることがあります。
情報開示も十分ではないところが多いのでなかなか難しいのが事実ですが、「気づかぬところで自分の預金が社会的弱者の搾取や権利侵害につながっていた」などということにならないよう、銀行選びに際してはこの点についても最低限の注意は払っておきたいところです。
なお、このエントリの掲載情報は正確性が保証されたものでもなく、ドル定期預金の開設や特定銀行の商品を推奨する目的も一切ありませんので、ご了解願います。
※追記:漏れていましたが、資産規模で業界第3位のCambodian Public Bank(カンボジア・パブリック銀行)も、今年6月からりそなグループと提携しているそうです。上位3行はいずれも邦銀が狙いをつけているんですね。