カンボジア人民党(CPP)はなぜ強い? |
現在の国民議会はカンボジア人民党(CPP)が全123議席中90議席(73%)を占め、圧倒的な優勢を保っています。一応、フンシンペック党(4議席)と連立与党体制を組んでいますが、実質的には一党支配体制と言っても差支えないような状況です。
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カンボジアの3つの主要政党(与党2・野党1)の起源や現状を簡単にまとめておくと、こんな感じです:
与党(94議席)
・人民党(CPP):
フン・セン首相が所属する最大与党。1979年、ベトナムの侵攻でポル・ポト派(クメール・ルージュ)がタイ国境地域に駆逐された後、ベトナムの後ろ盾で政権を樹立(当時は「人民革命党」)。内戦終結後初の総選挙(93年)では第二党となったが、第2回総選挙(98年)で第一党に躍進。以後、2回の選挙を経て党勢をどんどんと拡大。
・フンシンペック党(FUNCINPEC):
内戦中にシアヌーク前国王が結成し、次男ラナリット殿下に引き継がれた王党派の党。内戦終結後初の総選挙(93年)で勝利し、人民党と連立政権を樹立。ラナリット殿下が第一首相、フン・センが第二首相となったが、97年に両党間で武力衝突が発生。その後、第一党の座から滑り落ち、党内対立やラナリット殿下の党首解任・除名などを経て党勢はみるみる衰退。昨年、ラナリット殿下が別途結成していたノロドム・ラナリット党と再統合(ラナリット殿下は政界引退)。今年3月にシアヌーク前国王の末娘の党首就任を予定。
野党(29議席)
・カンボジア救国党(CNRP):
人民党の対抗勢力である最大野党。95年にクメール国民党として結成された後、党首の名前をとってサム・ランシー党と改称。サム・ランシー党首は2005年に連立与党の不正を訴えたが、逆に名誉棄損罪で訴えられ国外に亡命。一旦、国王恩赦を受けて帰国したものの、10年には与党がベトナムと締結した国境画定条約を非難し、国境の杭を引き抜いて有罪判決。再びフランスに亡命し、現在も国外滞在中。昨年10月、今回の選挙戦に向けて元人権NGOリーダーが率いる人権党と統合し、「カンボジア救国党」を結党。
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30年近く続いている人民党-フン・セン首相による独裁体制に対する欧米諸国の批判は根強いですが、首相自身は80歳まで、後20年ぐらいは政権を維持する意欲を持っているそうです。
王党派のフンシンペック党は退潮傾向が著しいので、今年7月の総選挙は実質的には人民党と救国党の2党の勝負だと思います。人民党が再び圧勝し、独裁体制がますます強化されることになるのか、それとも救国党が一定の勢力を維持あるいは拡大させ、歯止めを効かせられるのか、というのが注目点です。
ただ、昨年6月には今回の総選挙の前哨戦とも言うべき地方(コミューン)評議会選挙が行われ、人民党が72%の議席をとって圧勝しています。コミューンというのは国→州→郡・市の下に位置づけられる末端の行政単位ですが、各コミューンのトップであるコミューン評議長に至っては、人民党が97%(1,523名)を占める結果となっています。
わからないのは、なぜこんなに人民党が国民に高く支持されているのか、という点です。メディアなどでもっとも良く指摘されることが多いのは選挙における不正の存在です。The Economistの記事によれば、昨年のコミューン評議会選挙でも、人民党が選挙キャンペーンに警察や軍を利用したり、野党のメディア露出に制限を加えたり、ラジオ局の放送内容をコントロールしたり、投票所で人民党に投票するよう脅したり、といった状況があったようです。
確かに昨年の選挙中は、私自身も地方政府の公務員がこぞって人民党のキャンペーンに駆り出されているのを目にしました。公務員は人民党支持であることが暗黙の前提なので、「踏み絵」の意味も兼ねてか、選挙前に人民党から選挙資金として現金を徴求される、という話も聞きました。
ただ、個人的には、こうした選挙の不正や圧力、脅迫の存在だけで人民党の圧倒的優位の理由を説明するのは難しい気もします。外交面でタイとの領土問題(プレア・ビヒア)で、フンセン首相が強硬姿勢を示していることが評価されているとの報道もありますが、The Economistの記事は、カンボジアで人民党の独裁に対する「アラブの春」が起きないのは、国民に忌まわしい内戦の記憶が刻まれているからだ、と分析していました。
手段はともかくとして、30年近く続き、何百万人もの犠牲者を出した内戦を最終的に終結させたのはフン・セン首相です。多くの国民は再び国内が政治的混乱に陥ることを望んでおらず、残忍な政治手法や汚職に目をつぶってでも、まだ人民党に政権を維持させたいと思っている、ということなのかもしれません。
また、なんだかんだ言っても、最近のカンボジアがフン・セン首相のもとで高い経済成長を続け、海外からの直接投資が伸び、貧困率も下がり、少しずつ豊かになってきているのは事実です。経済面の成果を評価している国民もまた、多いのかもしれません。
今回の総選挙における人民党の不安材料を挙げるとすれば、土地紛争と人権侵害の問題が国内各地で一層深刻化し、国民のなかの不満が以前より高まっているということだと思います。勉強不足のため、他に何が与野党間の争点になっているのかよく知りませんが、救国党がこの人権問題を最大の攻撃材料として挑んでくることは間違いないでしょう。結果が出る7月まで、今後の動向を見守っていきたいと思います。
※3/14、記載内容を修正しました。